千手観音って?

千手観音(せんじゅかんのん)

梵字:キリーク

真言:おん ばざら たらま きりく そわか

千本の掌(てのひら)に1つずつある目で見つめ、多くの手にさまざまなものをもち、あますところなく無限の力で世界の人びとを救うことができる菩薩さまです

正式には「千手千眼観自在菩薩(せんじゅせんがんかんじざいぼさつ)」という

最強の菩薩として「蓮華王菩薩(れんげおうぼさつ)」ともよばれます

平安時代前期以前には千本の腕をもつ作例がある
葛井寺(大阪)、唐招提寺(奈良)、寿宝寺(京都)

それ以降の多くは、一本の手で二十五の世界を救うとされ、四十本の脇手(わきしゅ)と本来の二本を合わせて四十二本の手で表現されている

脇手には、宝珠(ほうじゅ)、蓮華(れんげ)、法輪(ほうりん)など多彩な持物(じもつ)をもつ

千手観音は、ねずみ年の守り本尊で、「諸願成就(しょがんじょうじゅ)」のご利益(りやく)があります
病気平癒、悪鬼退散、五穀豊穣、不安を取り除く、宝を与える、知恵を授けるなど最強

インド名は「サハスラブジャ」
意味は「千の手」

十一面(じゅういちめん)
頭頂に仏面、前に菩提面(慈悲の表情)が三面、向かって右に忿怒(ふんぬ)面(怒りの表情)が三面、向かって左に狗牙上出面(くがじょうしゅつめん)(白い歯を見せて微笑む)が三面、後頭部に大笑面(悪行を笑いとばす)を備える

化仏(けぶつ)
化仏とは、頭上に付属する小型の如来像のことで、聖観音菩薩は阿弥陀如来の化仏(観音菩薩のシンボル)を宝冠いつけている

宝戟(ほうげき)
先が3つに分かれた武器

錫杖(しゃくじょう)
修行僧が持つシャンシャンと音が鳴る杖

法輪(ほうりん)

宝珠(ほうじゅ)

日輪(にちりん)
目の病気を取り除く

月輪(がちりん)

合掌印(がっしょういん)

(おの)
人びとを守るための武器

(ゆみ)

(けん)

払子(ほっす)
煩悩を取り払う

定印(じょういん)
瞑想(めいそう)に入っていることをしめすサイン

数珠(じゅず)

羂索(けんさく)
人びとを救う投げ縄

天衣(てんね)
ショールのように肩にかけてまとう長い衣
体の前や横に垂らす

すべての手のひらに目がついている

後ろには40の手があり、それぞれが25の世界を救うとされる
40×25=1000
1000は「無限大(むげんだい)」を意味する

千手観音菩薩立像(せんじゅかんのん ぼさつ りゅうぞう)

雨宝院(うほういん)(京都府)

重要文化財
平安時代

頭部の十一面は欠けることなかったが、手は合掌手、宝鉢を持つ手を含めて十手を残し、他の三十手は失われている

応仁の乱のときに、京内のすべてが焼失した中をくぐり抜け、守り伝えられてきた仏像です

千手観音菩薩立像(せんじゅかんのんぼさつりゅうぞう)

道成寺(どうじょうじ)(和歌山県)

国宝
平安時代
像高 291㎝
ヒノキ材の一本造

千手観音としては異例なことに、日光菩薩と月光菩薩が両脇に立つ
古典的な気品がただよう

千手観音立像(せんじゅかんのん)

加茂神社(かもじんじゃ)(福井県)
重要文化財
木造
像高 108.5㎝
平安時代 10世紀

檜(ひのき)の一木造(いちぼくづくり)、内刳(うちぐ)りはない

たくさんの脇手(わきしゅ)は、矧(は)ぎ付けている

魅力的な表情をして、腰をぐっと引き絞っているのが印象的だ

千手観音菩薩立像(せんじゅかんのんぼさつりゅうぞう)

興福寺(こうふくじ)(奈良県)

国宝
木造
漆箔
玉眼
像高520.5㎝
鎌倉時代

旧食堂の本尊としてつくられた巨像

慶派の仏師が担当したと考えられている

千手千眼観音菩薩立像(せんじゅせんげんかんのんぼさつりゅうぞう)

寿宝寺(じゅほうじ)(京都)

重要文化財
平安時代

本像は、拝む角度や見る人の心で、慈悲の表情と厳しい表情をみせます

千本近く手がある千手観音像は少ない

千手観音菩薩立像(せんじゅかんのんぼさつりゅうぞう)

総持寺(そうじじ)(滋賀県)

長浜市指定文化財
平安時代後期(12世紀)
像高 106.1㎝

ヒノキ材を使った一木割矧(わりはぎ)造りで、小さな仏像です

丸みを帯びた肩や胸、丸顔で柔和な表情をしています

千手観音菩薩立像(せんじゅかんのんぼさつりゅうぞう)

大蔵寺(だいぞうじ)(福島県)

重要文化財
平安時代
像高 約4m

坂上田村麻呂が東北鎮護のために、行基菩薩が造ったと伝わる千手観音です

1本のカヤの木から彫り出され、県内最大といわれている

千手観音(せんじゅかんのん)

大報恩寺(だいほうおんじ)(千本釈迦堂)(京都府)

重要文化財
平安時代

千手千眼観世音菩薩ともいわれ、千の手のひらにそれぞれ眼があり、その眼で人々の様子を観察し、千の手でもれなく人々を救い取る菩薩といわれています

千手観音菩薩立像(せんじゅかんのんぼさつりゅうぞう)

中禅寺(ちゅうぜんじ)(栃木県)

重要文化財
平安時代
像高 4.8m
「立木観音」の名で知られ、中禅寺湖の湖上に立つ千手観音の姿を、根の張った立っているカズラの木に直彫りしたものと伝わる

千手観音菩薩立像(せんじゅかんのんぼさつりゅうぞう)

広済寺(こうさいじ)(栃木県)

江戸時代(1682年)
総高 155.8cm
一木造

微笑をたたえた表情、化仏や脇手(わきて)の持ち物など、円空(えんくう)独特の表現力、技法が冴えた像です

二つ割りした丸太の半円状の側に彫刻したもので、左右対称に近い立像です

千手観音立像(せんじゅかんのんりゅうぞう)

唐招提寺(とうしょうだいじ)(奈良)

国宝
像高 536.0㎝
奈良~平安時代 8世紀
木心乾漆造

本像は、5メートルを超える木心乾漆造(もくしんかんしつづくり)の巨像である

斜めから拝すると、どっしりした体から、たくさんの手が放たれているようだ

※木心乾漆造(もくしんかんしつづくり)
木を彫刻しておよその形を造り、その上に木屑漆(こくそうるし)を盛り上げて細部を仕上げる技法
奈良時代の後半から流行した

半肉彫千手観音立像(はんにくぼりせんじゅかんのんりゅうぞう)

神照寺(じんしょうじ)(滋賀県)

重要文化財
平安時代
像高 53.5㎝

ヒノキの一枚板から全て彫り出されている

脇手は半肉彫(浮き彫り)の技法です

千手千足観音(せんじゅせんそくかんのんりゅうぞう)

正妙寺(しょうみょうじ)(滋賀県)

江戸時代?
像高42㎝

すべての人々をあらゆる方法で、どこまでも助けに行くという観音さまです

千手観音菩薩坐像(せんじゅかんのん ぼさつ ざぞう)

壷阪寺(つぼさかでら)(奈良県)

室町時代

樫(かし)を用いた、寄木造(よせぎづくり)

眼病封じの観音さま

十一面千手千眼観世音菩薩坐像(じゅういちめんせんじゅせんがんかんぜおんぼさつざぞう)

葛井寺(ふじいでら)(大阪府)

国宝
奈良時代 8世紀
総高246.0㎝
像高144.2㎝

日本最古の千手観音像

通常、千手観音像の手は42本
この像は1041本もある
合掌する2本、脇手(わきしゅ)1039本(持物(じもつ)を取る大手38+小手1001本)
しかし、通常は腹前にある、宝鉢(ほうはつ)を取る手がない

本体は脱活乾漆造(だっかつかんしつづくり)
脇手は桐材を心木(しんぎ)とする木心乾漆造(もくしんかんしつづくり)
仏像に桐材を用いるのは珍しい

本体や台座など、ほとんどが造立当初の姿をとどめている

毎月18日に開扉(かいひ)される

千手観音坐像(せんじゅかんのんざぞう)

三十三間堂 蓮華王院(れんげおういん)(京都府)

国宝
鎌倉時代
像高 344.8㎝

三十三間堂(京都府)に安置される千一体の千手観音立像の中央に坐す

鎌倉時代に運慶の長男・湛慶(たんけい)が制作

千体千手観音立像(せんたいせんじゅかんのんりゅうぞう)

三十三間堂 蓮華王院(れんげおういん)(京都府)

国宝
木造
漆箔
像高 約165㎝~168㎝

中尊の左右に十段の柵を設け、この柵に合計千体の千手観音立像が安置されている

平安時代の創建時には運慶の父の康慶(こうけい)が総指揮をとって造像された

鎌倉時代の再建時には運慶の長男の湛慶(たんけい)が造像の総指揮をとった

再建に当たって湛慶は自らが所属する慶派ばかりでなく、当時、慶派と競っていた院派と円派の仏師も動員し、仏師界一丸となって造像に励んだ